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  • 2009.08.12 Wednesday
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本の精霊

JUGEMテーマ:小説/詩


本を大事にしてね、といつも私は言っている。
前のご主人様はとてもいい加減だった。
その前のご主人様は、やっぱりいい加減だった。
さらに前のご主人様は……よかったかも。
今度のご主人様はとっても大事にしてくれる。
しすぎてくれて、私が怖くなっちゃうみたい。

私は本の精霊。
古い本に宿る、弱い精霊。
本を読んで感じてもらえる、いろんな気持ちが私を作った。
私の宿る本の作者、つまり私のお父様は、もうこの世にいないけど、私はそのお父様の言葉をこの世に伝え続けている。
ほんとは、私は他の本に宿ることもできる。
本の精霊はいろんな本を宿りうつるし、大切にされるのが大好きだから、そんなご主人様を見つけるとそこにずっと居座る。
でも私は、そうしなかった。私は今宿ってる本で生まれて、その本から抜けようと思ったこともない。
私はお父様の言葉が大好きだったから。
何度か他の本の精霊と話したことあるけど、私が「お父様」と呼んでるような人はみんないないみたい。
もう忘れてしまったのかも知れないし、やっぱり最初から居なかったのかも知れない。
彼女たちはみんな、ご主人様が好きで、ご主人様と一緒に過ごして、そしてご主人様がいなくなると寂しそうに消えていったから。
私みたいに、一つの本に宿ったままな子は見たことない。すごく変わり者なんだと思う。


今日も、ご主人様は丁寧に本を扱ってくれている。
「さて、と」
ご主人様は若い。今までで一番若いかも。まだ20代のお兄さん。
でも古い本が大好きで、私の本よりもっと古い本もたくさん持っている。
もちろん、ここにいる精霊も私だけじゃない。本を大切にしてくれるご主人様の元には、たくさんの精霊が寄ってくるから。
「そろそろ手入れもしてやらないとなぁ。週末時間つくるかな」
そう、ご主人様は本の手入れに余念がない。いつもいつもしっかり手入れしてくれる。
それはとっても嬉しいのだけど、なんだか今まで大切に扱われてこなかった私には不思議だし、なんだがむずがゆい。
周りの精霊たちはそれでこそご主人様だと喜んでいるけど、私は複雑な気分だった。
あの子達はいつも、こういうご主人様と一緒にいるんだ。
いつも、ぞんざいな扱いしかされてこなかった私。
いつも、ご主人様に大切にされてきたあの子達。
本を大切にしてね、なんて言わなくてもいい。あの人は当たり前のように大切にしてくれる。

ある日、ご主人様が私の宿る本を取ってくれた。
その本には、ある男爵の生涯について書かれている。
男爵は圧政を敷きとても憎まれていた。だけど、ある日彼の子供が死に、そこから今までにない世界が広がっていく。大人なのに子供じみた、わがままな男爵が、誰よりも聡明で民を愛し、みんなに慕われる男爵に変わっていく。
それなのにある日、昔母親を亡くした青年に男爵は刺される。
……そんなお話を、ご主人様は帰ってきてから夜、何日かかけて読み進めていった。
本に宿る私には、ご主人様の温かい気持ちがわかる。
こんなにも大切にしてくれるご主人様。なのに、本を読んでる時の感情は、今までのどのご主人様より希薄だった。
私はそれが不思議でならなかった。
なんでなんですか、ご主人様。
問いかけても、ご主人様には私の声は届かない。

ご主人様が本を読み終えた。
「この本を書いた人は、何を思ってこの本を書いたのだろう」
独り言を呟くご主人様。その姿が不思議だった。
ご主人様は、本の内容が理解できなかったのだろうか。こんなに本を大切にしているご主人様なのに、私の宿る本はだめなのだろうか。
「僕には想像できない。憎まれていた人間が、そう簡単に許されるなど。そんなきれい事なんて」
私は悲しかった。
こんなにも大切にしてくれるご主人様がそんなことを言うのが悲しくて仕方なかった。
「思ったより微妙だったな。置いといても仕方ないから、やっぱり売ってしまうか」
そして、私はこのご主人様の元を離れることになった。


今度のご主人様は、やっぱりいい加減な人だった。
読んだ後、本をそのまま置いておくし、外から帰ってきて手も洗わずに本を読む。
だから本はやっぱり少し痛むけど、でも私はほっとした。
だってこのご主人様は、しっかりと本を読んでくれるし、感動してくれるから。
前のご主人様はあんなにも優しかったけど、丁寧に扱ってくれたけど、理解して貰うことが出来なかった。
私にはなによりそれが大切だった。
お父様の言葉を伝えるために、私はこの本に宿ったのだから。
少しずつ本が傷んだって、この本を好きで読んでくれる人がいい。
それを他の精霊達は変だって言うかも知れないけど、私にとってはそれが一番だからいい。
だからきっと、本がよれよれになって、私もぼろぼろに崩れても、私はずっとこの本と共にあるだろう。

昔、お父様が伝えたかった思いを伝えるために。
伝わっていくのを、ただ見守るために。

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