<< 自分のカタチ | main | 第3話「旅立ちの日?」 >>

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臆病亀

JUGEMテーマ:小説/詩


小さな村の、小さな井戸。
村はずれの、みんなが使わなくなった井戸。
村の真ん中の井戸と比べて、
水は汚くて、くみ取りづらくて、
普段はふたをかぶせたままほっとかれている。

そんな井戸のなかに住み着いた
一匹の小さな亀。
なんでそんなところに住み着いちゃったかは忘れたけど、
亀は満足していた。
傾いて穴もあるふたから漏れる陽の光はほどよくて、
水温はいつも心地よい温度で、
なにより怖いモノはなにもいなかった。

その亀も、長く長くそこに住んでいて、
気がついたらもういい歳。
今まで思わなかったのに、
ふと、その井戸の外に出たくなった。

湿気が多くて薄暗い井戸の側面は、コケがびっちり生えていて、
鈍重な亀には登れそうになかった。
それでも亀は登りたかった。
登って、眩しい陽の光を浴びてみたかった。
もう覚えていない、外の賑やかな世界を見たかった。

年老いた亀は決意した。
少しずつ少しずつ壁をのぼった。
滑り落ちて、水に背中をぶつけた。
頑丈な亀も、歳をとった今じゃその衝撃が響いた。
それでも、亀はよじ登った。
どうしても陽の光を浴びたかった。

執念が実を結び、何度も何度もチャレンジした挙げ句、ようやく井戸の外にでられた。
眩しい陽の光に目がくらみ、
亀は大いに喜んだ。
なんでもっと早く井戸から出ようと思わなかったのだろう。
なんでこの陽の光を忘れてしまっていたのだろう。
こんなにぽかぽかと暖かくて、嬉しくなれるのに。

その時、大きな鳴き声が聞こえた。
亀は大慌てで甲羅のなかに閉じこもった。
がくがく震えて、逃げ出したいけど動けなくて、息苦しくなった。
ああそうだ。
怖かったんだ。
怖くて甲羅に閉じこもるように、怖いモノのない、井戸の中に逃げ込んだんだ。
なんてもったいない人生だったんだろう。
なんて臆病な自分だったんだろう。

大きな鳴き声をだした生き物は、のしのしと去っていった。
年老いた亀は、もうそこから少しだって動きたくなくなった。
だけど、井戸を出た世界は広すぎて、こんな近くにずっと居るなんて勿体なかった。
年老いた亀は歩いた。
陽の光の中、歩くとめまいがした。
もう、ふらふらだ。

甲羅が重くて、重くて、
脱げるものなら脱いでしまいたくなった。
そんな風に考えるのも不思議で、
臆病だった自分はどこに消えたのだろうと思った。
年老いた亀は、ただ歩いて、歩いて、気がつけば水のあるところにいた。
それは大きな水たまりだった。
けれど、数日もしたらこの光に干されてしまうのだろう。

亀にとってはその数日だけでも十分だった。
だってもう、亀は動けなかったから。
だってもう、亀は自分の終わりを知っていたから。
最後に水に浸かって、亀は陽の光を浴びて、
ささやかな幸せを感じていた。

ああ、生まれ変わったら。
もっともっと、もっともっと
遠くまで、どこまでも、
この広い世界を行きたい。
その時は、きっと怖いものからも逃げず、
行きたいところまで、どこまでも歩いていける。

だから、亀はただ願った。
臆病でなく、どこまでも、進める自分に生まれ変わることを。
そして、亀の命は、陽の光に溶かされていった。

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  • 2009.08.12 Wednesday
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