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  • 2009.08.12 Wednesday
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走って転んで負けない

JUGEMテーマ:小説/詩


圭輔はいつも落ち着きのないやつだが、今日ばかりはいつも以上に落ち着いてなかった。
今日は待ちかねていた新作ゲームが発売日。
学校が終わったらソッコーで家までダッシュで帰って、チャリンコダッシュで店まで行って、そんでぶっ飛ばして家に帰って、寝るまでゲーム三昧と決めていた。
そんな状況はもちろんクラスメイトに伝わるわけもなく、
「けーすけー、今日ひまー?」
とか声をかけられ、
「わっりー。オレ今日むりだー」
とか答えたり。
「けーすけー、サッカーやるから来いよ」
と、いつもなら間違いなく喜んでいくところを
「あーごめん。今日は無理なんだ」
とか断ったり。
まぁそんな学校も終わり。

圭輔は起立、礼、猛ダッシュで教室を後にした。
「な、なに!?」
その圭輔の前を走る奴が居た。
いつも一人で本を読んでるメガネの淳平だ。
運動神経なんてこれっぽっちもなくて、毎日のように外で遊んでる圭輔とは対照的な少年だった。
その淳平が、自分の前を走ってる。
席は確かに淳平の方が出入り口に近かったが、それにしても意外だった。
まさかあいつに負けるわけには行かない。
圭輔はペースを上げた。ギア1段あげるぐらいわけはない。
そして並ぶと同時に、淳平の顔を見た。
淳平はすごく驚いた顔をして、いきなり
「僕の前を走るなよ!!」
とかわけのわからないことをぬかした。
思わず「え?」と聞き返してしまう。
普段は口答えなんて全然しないような、大人しいやつなのに。
だけど、淳平は必死だった。今まで見たことないぐらい必死だった。ガリで、全然体力とかないはずのやつが、超必死こいて、圭輔の前を走ろうとしていた。
そして、下駄箱についたときには、淳平は見たこともない早業で上履きを放り込み、下履きに履き替え、猛ダッシュで去っていった。
「ま、待てよ!!!」
我に返った圭輔は、焦りすぎて靴を落とし、大幅にタイムロスして下駄箱を後にした。


嘘だろ。
あんなやつに負けてたまるかよ!
あのひょろっちい淳平に本気で対抗心を燃やしていることに気づき、圭輔はなんとも奇妙な気分になった。
とにかく負けられない。
あいつもきっと、今日発売のゲームを買いに行くのだろう。
そして、家もそう遠くないはずなので、行く店も同じのはずだった。
あいつより後に買うなんてぜっったいダメだ。負けてたまるか。
走る。とにかく走る。

家に着いた。
「ただいま!!」
部屋まで走る。
母親が何事かと顔を出すが、その間に鞄を部屋に放り投げ、財布をつかんで、そしてすぐに玄関に向かう。
「ど、どうしたの?」
「ゲーム買ってくる!!!」
それだけ言い捨てて、圭輔は走った。
家を出て、自転車を見て気づく。やべぇ、自転車の鍵を忘れた。
すぐに引き返そうとして、
「__痛っ!?」
足を捻った。
加減して走らざるをえなくて、部屋まで取りに戻る。
どたどたどたという音に
「こら、圭輔!! 走るんじゃない!」
と、母親が首を掴もうとする。
もうこれ以上時間を無駄にできないんだ!
圭輔はスライディングした。これこそ、あいつなんかにはできない芸当だ、と思った。
だけど母は一段上だった。
抜けようとしたところを、足で捕まえられる。
「こら! 落ち着きなさい!」
「放してよ!!」
「じゃあ歩いて玄関まで行く。そんな慌ててると事故るから、自転車も飛ばしすぎないの。いい!?」
「わかった!! わかったから!! もう時間ないから!!」
「そんなに急がなくても逃げないわよゲームは」
違うんだ。そんな問題じゃないんだ。
悔しくて涙がでそうになった。耐える。こんなところで負けてたまるか。

今度こそ自転車にまたがり、母の見えてるうちは適度に急いで、角を曲がってからは超ウルトラ猛ダッシュで自転車を立ちこぎした。
ダメだ、これじゃダメだ!
近道を行く。狭くてでこぼこしていて、捻った足には響くけど、構ってられなかった。
淳平には負けられない。負けてたまるか。


ゲーム屋を目前にして、淳平が店の前まで来ているのを見つけた。
あっちは走っているけど、自転車じゃない。
やった! オレの勝ちだ!!
圭輔はわざと淳平の前を突っ切って、駐輪場に向かった。
淳平も、もの凄く急いで走ってきたようで、鼻水を垂らしながら、もの凄い顔で圭輔を睨んできた。
いやっほーー!!
叫びたい気分で、だけど我慢して、圭輔は自転車を降りた。
走って店の入り口に向かう。
そして、レジの横に積んである「本日発売!!」のゲームを手に取り、
レジに並んだところで後から淳平が入り口から入ってきた。
圭輔はにんまり笑いながら淳平を見た。淳平は、もはや睨むこともせず、斜め下を見ながらゲームを手に取り、自分の後に並んだ。
「お次にお待ちのお客様、どうぞ!」
圭輔は悠々と、そのレジに向かう。
「6121円になります」
そして、財布から五千円札と、千円札と、100円を出して……残りが1円玉しか無いことに気づいた。
(…え!?)
焦る。財布をひっくり返して、1円玉を並べた。
1、2、3、4……13枚。13枚しかなかった。
8円、足りない。
ちゃんと溜めておいたはずなのに。

「お次にお待ちのお客様、こちらにどうぞ」
隣のレジのおじさんが言った。
淳平が、隣に来た。
圭輔の様子を見て、驚いたような顔をして、そして、
「足りないの?」
聞いた。
圭輔は黙ったままだった。
淳平は、1万円札を店員に渡した。
圭輔は、その様子を呆然と見つめていた。
レジのお姉さんは困ったように、圭輔を見ていた。
淳平はそのパッケージを受け取っていた。
そして、おつりを受け取ると。
「いくら?」
と、圭輔を振り向いて聞いた。
圭輔は黙っていた。
「いくら足りないの?」
淳平はもう一度聞いた。
圭輔はそれでも黙っていた。
ただ見つめていた、その目から、あふれ出すものを止められなかった。
淳平は、圭輔の前をのぞき込むと、お金を数え始めた。
それに気づいた圭輔は、かすれた声でなにかをつぶやき、肩から淳平にぶつかった。
弱々しく、いつもなら考えられないほど力の入ってない、タックルだった。
そして、震えるかすれ声で
「ごめんなさい、やめます…」
とレジのお姉さんに伝えると、出したお金を掴んで、強引に財布にねじ込み、
「!!」
淳平を一度睨んで、そして走って店を出て行った。
残された淳平は、呆然とそれを見送った。


翌日、圭輔は学校に行きたくないと母親に言った。
いつもは喜んで行く圭輔がそんなことを言うことにびっくりしながらも、説得する母親。
それでも圭輔はかたくなに行くことを嫌がった。
仕方ないので、病欠と担任の先生に電話した。圭輔は、布団に入ったまま出てこなかった。
夕方、心配してきた友達が尋ねてきても、「調子が悪いって言って」と断らせた。
そして、
「西原淳平君って子が来たわよ。いいの?」
と母親が言うと、
圭輔は一瞬、固まり、次の瞬間。
布団を蹴飛ばして廊下を走っていた。

「淳平!」
玄関先に居たのは、間違いなく淳平だった。
淳平は目を逸らして、立っていた。
「なにしに来たんだよ!!」
「別に……」
淳平は目を逸らしたまま答えた。
圭輔は我慢できなくなり、淳平の胸ぐらを掴んだ。
「なんであんなこと言ったんだよ! なに勝手なことしようとしてだんだよ!!」
「圭輔!!」
母親が驚いた顔で出てきて、二人を引き離した。
「どうしたのよ、一体!?」
圭輔はまた泣きたくなった。
悔しくて悔しくて、許せなくて泣けそうだった。
「あの……」
淳平が口を開いた。
「なんだよ」
「嶋野君だって、あのゲームやりたくて走ってたんだよね。あんなに一生懸命。なのに買えないの、絶対嫌だろうからと思って、僕は……」
圭輔は睨んだ。視線で殺せるなら殺してやっても良いとさえ思った。
「お前なんかに金出して貰ってたまるかよ!!」
「なんだよ! 人がせっかく親切にしてやってるのに!!」
「うるせぇよ!!」
圭輔は拳を振り上げようとして……止めた。
「…帰れよ。明日は学校行くから、もう帰れよ」
「……」
淳平は黙って、後を向いた。
その姿を見て、圭輔は逃げ出したくなった。
違う。
悪いのはこいつじゃない。オレなんだ。
言葉にはできない、けどそう思っていた。それなのに追い返してる自分が、すごく卑怯に思えた。
涙が出そうになる。
なにか言いたかった。言わなきゃいけないと思った。
でもなにを言えばいいかわからず、必死で考える。
ただ呼び止めることはできない。でもなにか言わなきゃならなかった。
そして、思いついた。
「淳平!」
淳平は振り向いた。
「あのゲーム、面白いか!?」
淳平は驚いた顔で、固まる。
しばらく、二人は沈黙し、
「…うん、面白いよ」
ぽつり、と淳平が言った。
圭輔は身を乗り出し、叫んだ。
「じゃあ、オレ今から買ってくるから。絶対買ってきて、絶対お前より先に全クリするからな!!」
そんな圭輔の言葉に淳平は驚き、ただ口を開き、何かを言おうとしたままぽかーんとしてた。
圭輔はそんな淳平に、
「いいな! 今度こそ絶対負けないからな!!」
と宣言した。
唖然としていた淳平は、それを聞き、固まっていた頭を無理矢理動かし、
そして斜めを向いたまま言った。
「嶋野なんかに僕が負けるわけないじゃないか。やってみせろよ」
と。
圭輔は笑った。1粒だけ涙をこぼし、だけど笑った。
淳平も笑った。変な顔しつつ、だけどやっぱりへらへらと笑った。



その後、二人はでこぼこコンビとしてクラスで有名になるのだが、それはまた別の話。

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